台湾民主化運動時代のMac OS:System 6.0.5 TA1 徹底レビュー
先日、世界で初めて中国語版Mac OSを作り上げた人物の手記と、初めて公式中国語版Mac OSとしてAppleからリリースされたSystem 5.1 TA1のレビュー記事を続けて掲載いたしました。
System 5.1 TA1がリリースされた1988年から2年後の1990年、中国語版Mac OSの次世代版となるSystem 6.0.5 TA1がリリースされました。
System 6.0.5 TA1では遂にマルチタスク機能を司るMultiFinderが中国語版にも搭載され、複数のアプリケーションを同時に使用できるようになりました。
また、アイコンに色を付ける機能等、カラー対応も強化されています。
System 6.0.5 TA1がリリースされた1990年当時の台湾は民主化運動の真っ只中。
3月には萬年國會(43年間に渡り改選が実施されなかった中華民国国会)の解散、臨時條款(動員戡亂時期臨時條款、総統による戒厳令の宣布等を可能とする憲法条項)の廃止等を求める台湾全国の学生約6,000名が中正紀念堂に座り込んだ「野百合學運」が実施される等、台湾社会の民主化に向けて社会が大きく動いている時期でした。
そんな社会の中で、当時最先端のMac OSはどのように使われていたのでしょうか。
今日は34年前の台湾にタイムスリップして、System 6.0.5 TA1の徹底レビューをお届けします。
目次
System 6.0.5 TA1 徹底レビュー
System 6.0.5 TA1は、安裝磁片(インストーラー)、系統磁片(1)(システム1)、系統磁片(2)(システム2)、工具磁片(1)(ユーティリティ1)、工具磁片(2)(ユーティリティ2)から成るフロッピーディスク5枚組。
インストーラーディスクから起動すると、本バージョンから新たに登場したインストーラーが起動します。
これにより、Mac OSを初めて触るユーザーでも簡単に使い始められるようになりました。
それでは、まずはインストールから実施してゆきましょう。
(今回はMacintosh IIのエミュレーターであるMini vMac IIを用いて実施してゆきます。)
インストール

インストーラーディスクから起動すると、「Welcome to the Apple Installer」という画面が表示されます。
「好(了解)」をクリックして次に進みましょう。

インストール方法を選ぶ画面が表示されます。「簡易安裝(簡易インストール)」をクリックすると既定の状態でインストールされます。
「提示(ヒント)」をクリックする画面の操作方法が表示され、「自定(カスタマイズ)」をクリックするとカスタマイズ画面が表示されます。
ちなみに、一つ前のバージョンであるSystem 5.0 TA1ではフォントの関係でクリックを意味する「響」の字が簡体字の「响」に置き換わってしまっていましたが、System 6.0.5 TA1ではしっかりと正体字(繁体字)に修正されています。
今回は「自定(カスタマイズ)」をクリックしてカスタマイズできる項目を見てみましょう。

「クリックでインストール項目を選べます。Shiftとクリックで複数のインストール項目を選べます。」と表示されます。
当時の各種Macintoshに対応したシステムソフトウェア、プリンター用のドライバー、AppleShare、32bit QuickDraw等が選択できます。
下部に表示される各項目の説明は英語のままです。
今回は「System software for any Macintosh」、「Software for all Apple printers」、「AppleShare」、「32-Bit QuickDraw」を選択して、「安裝(インストール)」ボタンをクリックします。

インストールが始まりました。途中何度かフロッピーディスクを入れ替えるよう指示されるので、指示されたフロッピーディスクを挿入します。

インストールが完了しました。「離開(終了)」をクリックしてインストーラーを終了します。
デスクトップとFinder

インストールディスクを取り出してMacを再起動させると、デスクトップ画面が表示されました。
今回はカラー対応のMacintosh IIを用いているので、左上のAppleマークがカラーで表示されています。
また、「顏色(カラー)」というメニューも表示されており、アイコンに色が付けられます。

Systemのバージョンは6.0.5、Finderのバージョンは6.1。System 5.1 TA1ではフォントの関係で追い出されてしまっていた「Bruce」ことBruce Horn氏も、今回はしっかりと表示されています。

Finderではファイル名のフォントが変更され、より中国語と英語のバランスが取れた表示になりました。
System 6.0.5 TA1のコントロールパネル

コントロールパネルを開いてみました。「桌面圖樣(Desktop Pattern)」の「圖」の字も、System 5.1 TA1では簡体字の「图」だったのが正体字に修正されています。
ちなみに、Macintosh IIはカラーに対応しているので、デスクトップに色を付けることも可能です。これなんかちょっとオシャレですよね。
一方で、「虛擬記憶(RAM Cache)」のオン・オフが「用」・「甭」になっている点や、日付の順序がMM/DD/YYと米国式のままになっている点はSystem 5.1 TA1から改善されておらず、そのまま引き継がれています。

こちらは「中文系統(中国語システム)」タブ。System 5.1 TA1では別のDA(デスクトップアクセサリ)として設けられていましたが、System 6.0.5 TA1ではコントロールパネル内に統合されました。

「內碼(エンコード)」タブでは、入力した漢字に対応するBIG5コードを検索できます。

「字體編修(字形編集)」タブでは、収録されている漢字の形を変更できます。
System 5.1 TA1と同じく、既定では16ドットのフォント「台北」だけが登録されています。

「注音」、「倉頡」、「簡易」タブでは、それぞれの入力方式について設定ができます。

「Color」タブから「改變顏色(色を変更)」ボタンをクリックすると、カラーホイールが表示されます。
ここで選択した色で選択中のオブジェクトが表示されるという仕様のようです。ちなみに既定では黒となっています。
Macintosh IIでは、最大256色の表示に対応していたようです。1990年当時、256色が表示できるコンピューターは相当豪華なものだったことでしょう。

「Keyboard」タブでは、キーリピートの速度、キーリピート開始までの速さ、キーボード配列を変更できます。
キーボード配列が変更できるということは、USキーボード以外のキーボードもサポートしていたということでしょうか。
日本語キーボードを接続するとどうなるのか、是非とも試してみたいところです。

「Monitors」タブでは、白黒・カラーの選択、最大色数の選択、モニターの位置合わせ、メインモニターの指定等の操作ができます。
信じられないことに、1990年時点でMac OSは既に複数モニターへの同時出力をサポートしていたようです。

「Mouse」タブでは、マウスの設定を変更できます。
System 5.1 TA1ではマウスの中国語訳が「老鼠(ねずみ)」となっていましたが、本バージョンからは「滑鼠(マウス)」に修正されたようです。

「Sound」タブでは、音量と通知音の種類が変更できます。
通知音は「Boing」、「Clink-Klank」、「Monkey」そして「Simple Beep」の4種類が収録されています。

「Startup Device」タブでは、ブートドライブを変更できます。
System 6.0.5 TA1のデスクトップアクセサリ

「尋找檔案(ファイル検索)」は、シンプルな検索アクセサリです。System 5.1 TA1の頃とあまり変わっていませんが、左下部の文字潰れ問題が多少マシになりました。

「鍵盤字表(キーボード)」と「剪貼簿(スクラップブック)」。こちらもSystem 5.1 TA1から大きな変更点はありません。

「計算機」、「鬧鐘(時計)」そして「選擇周邊(セレクタ)」。
計算機はSystem 5.1 TA1とほぼ同一です。時計もほぼ同一ですが、バージョン1.5との記載があります。
セレクタには、あらかじめAppleShareとプリンタ用ドライバをインストールしておいたので、いくつかデバイスの選択肢が表示されています。
System 6.0.5 TA1の標準搭載アプリ

「Apple HD SC Setup」は、SCSI接続のHDDを構成するためのアプリです。System 5.1 TA1では中国語版が搭載されていたのが、何故かSystem 6.0.5 TA1では英語版になってしまっています。

「蘋果中文Read Me!(Chinese Talk Read Me!)」は、Mac OS System 6.0.5 TA1に関する説明が書かれたテキストファイルです。
インストールに関する説明や、デバイスごとの差異に関する説明が記載されています。

Disk First Aidでは、ディスクの修復が実施できます。こちらはSystem 5.1 TA1には搭載されていませんでした。
昔のMac OSでお世話になった方も多いのではないでしょうか。

HDBackupでは、ハードディスクのバックアップを取得できます。こちらも今回のバージョンから登場したアプリです。
当時のハードディスクは現在のものよりも信頼性に欠けていたので、このようなアプリも欠かせなかったことでしょう。

「Apple File Exchange」は、MacintoshとProDOS(Apple IIのOS)、MS-DOS間でのファイルの変換を実施するアプリです。
当時、多くのOS同士ではファイルの扱い方や文字コードに関する互換性がなかったため、別のコンピューターとファイルを交換する際には相手先のOSに合わせたファイル形式に変換しなければいけませんでした。
今ではWindows、macOS、Linuxを問わず、大抵のファイルはそのまま読み書きできますよね。便利な時代になりました。

Font / Desk Accessory Moverは、フォントとDA(デスクアクセサリ、複数同時に実行できるミニアプリ)をインストール・アンインストールするためのアプリです。
初期のMacにはマルチタスク機能が存在しておらず、メモリも128KB〜1MBほどしか搭載されていなかったため、同時に複数のアプリを動作させることには大きな課題がありました。
解決策の一つとして、少量のメモリしか消費せず複数同時に実行できるミニアプリとして、DA(デスクアクセサリ)という形式のアプリが提供されていました。
標準で搭載されていた計算機、時計やスクラップブック等のアプリも全てDAとして提供されていました。
通常のアプリはFinderから目的のアプリをダブルクリック、DAはAppleメニューから目的のアプリをクリックすることでそれぞれ起動できました。
そのため、当時カスタマイズを極め数多くのDAを導入していたユーザーのAppleメニューは、恐ろしく縦長に膨らんでいたことが多かったようです。

TeachTextは、いわゆるテキストエディターです。
今回はデモとして1990年のJ-POPヒット曲「浪漫飛行(米米CLUB)」の台湾版、「朋友,再見!(陳為民)」の歌詞を入力してみました。
まさかあの浪漫飛行にも中国語カバー版があったとは…。
おわりに:激動の時代を駆け抜けたMac OS
先日ご紹介したMac OS System 5.1 TA1と今回のMac OS System 6.0.5 TA1を比較してみると、UIに大きな差こそないものの、インストーラーの付属、カラー対応やマルチタスク機能の強化、そしてようやく実現した完璧な正体字(繁体字)フォント等、多くの面で改善が加えられていることがわかりました。
当時の台湾で、実際のこのMac OSを普段の仕事やプライベートに用いていたユーザーはどれほどいたのでしょうか。
そして、当時の台湾ではMac OS対応の中国語ソフトウェアがそもそも発売されていたのでしょうか。
1990年当時、今では観光で台湾に来たら一度は乗るであろう台北地下鉄(台北捷運)はまだ工事中。
今では何十とあるテレビのチャンネルは台灣電視台、中國電視台、中華電視台の3チャンネルしかありませんでした。
台湾の社会が開発独裁体制から真の民主主義へと移行する最中、きっとMac OSも台湾の社会に少しずつ溶け込んでいったのでしょう。
今回は、34年前の台湾にMac OSを通してタイムスリップしてみました。お楽しみいただけましたら幸いです。


