忘れられた「台湾初のMac」を求めて:System 5.1 TA1徹底レビュー
皆さんはMac派、Windows派どちらですか?もしかしてLinux派?
僕はというとHAIKU派です。のこのこです。
台湾でもMacは大人気。
大学生からデザイナーに至るまで、今では多くの人がMacを使っており、台湾のOS市場に占めるmacOSの割合は2024年10月時点で8.71%(出典)。
日本のOS市場に占めるmacOSの割合が2024年10月時点で7.23%(出典)であることを考えると、台湾の方がmacOSの人気は高いようです。
ところが、「台湾にはいつからMacがあるのか?」という質問に答えられる方は、現在のPC業界の重鎮を探してもなかなかいないかと思います。
インターネットを探しても、ほぼ情報がありません。
そこで今回、独自に調査を実施したところ、以下の2点が判明しました。(追記あり)
- 台湾で(恐らく)初めてリリースされたMac OSは、System 5.1である。また、これは恐らく中国語圏初のGUI環境である。
今回、台湾版System 5.1(1988年発表)であるSystem 5.1 TA1のデータを入手することに成功しました。
黎明期のMac OSである「System」シリーズは1.0から7.5.5まで存在しますが、System 1からSystem 4に関しては中国語版のデータはおろか、存在した痕跡すら発見できませんでした(System 6およびSystem 7については中国語版が存在します)。
System 5のWikipediaにも「恐らく初めて中国語版が発表されたバージョンである」との記載があることから(出典)、今回発見したSystem 5.1が初の中国語版Mac OSであった可能性は非常に高いです。
また、1988年当時の最新版であったWindows 2.0には中国語版は存在せず、当時ほかにメジャーなGUI環境であったApple GS/OS、VisiCorp Visi On、DigitalResearch GEM等には中国語版は(恐らく)存在しないことから、System 5.1 TA1は初の中国語版Mac OSであっただけでなく、高い確率で中国語圏初となるGUI環境であった可能性があります。
追記:公式中国語版Mac OSが登場する以前、System 1.0の頃から、個人の手により中国語版Mac OSが制作されていたことが判明しました。詳しくはこちらをご覧ください。 - 台湾で(恐らく)初めて販売されたMacは、Macintosh SEである
MediumというWebサイトに、Macintosh SE/30(1989年発売)のセールスをしていた方が当時の思い出を書き残しています(出典)。
このことから、Macintosh SEの改良版であるMacintosh SE/30は、確実に当時の台湾で販売されていたことがわかります。
一方で、Macintosh SE/30に出荷当時搭載されていたOSはSystem 6.0.3でした。
一つ前のバージョンであるはずのSystem 5.1に中国語版が存在することから、台湾で初めて販売されたMacも一つ前のモデルであるMacintosh SE(1987年発売、初期搭載OSはSystem 4.0)であった可能性が示唆されます。
追記:1985年時点で、公式ルートでの販売かは不明なものの、台湾では既に初代MacintoshであるMacintosh 128Kが流通していたことが判明しました。詳しくはこちらをご覧ください。
さて、以下の記事は残念ながらここまでの記述をご理解いただける方向けです。
難しいけれど知りたいという方は是非ともご連絡ください。のこのこ自ら一晩飲み明かしながらじっくりたっぷりと解説いたします。
目次
台湾初のMac OS・System 5.1 TA1徹底レビュー
今回入手したSystem 5.1 TA1はフロッピーディスク3枚組。
ディスク1から起動させると一部のフォントが読み込まれずに文字化けしてしまうので、まずは漢字Talk 6.0.7を用いて3枚のフロッピーディスクからあらかじめ用意したハードディスクにファイルを全て複製。
その後、Macintosh SEをハードディスクから起動させると無事にSystem 5.1 TA1が動きました。
(以上の手順はMini vMacを用いて実施しています。)

起動してすぐの画面がこちら。独特な字の形に驚かされます。このフォントは「台北」と名付けられています。

バージョンを確認してみました。Finderのバージョンは6.0 TA1、Systemのバージョンは4.3 TA1となっています。
「Larry, John, Steve」の欄は本来であればもう一人「Bruce」ことBruce Horn氏の名前が入るはずなのですが、フォントの関係で残念ながら追い出されてしまっています…
System 5.1 TA1のデスクトップアクセサリ

こちらはコントロールパネルの「General」タブ。
正体字(繁体字)中国語版のはずが、「桌面圖樣(Desktop Pattern)」の「圖」の文字が簡体字の「图」になってしまっています。今では考えられないことですが、あまり気にされないような時代だったのでしょうか…。
また、「虛擬記憶(RAM Cache)」のオン・オフが「用」・「甭」になっていることも驚愕です。
「不用」と書くスペースが無かったことでの苦肉の策だったのでしょう。
他にも、日付の順序がMM/DD/YYと米国式のままになっている等、作り込みの粗い点がどうしても散見されます。

コントロールパネルの「Mouse」タブ。まず、「滑鼠(マウス)」が「老鼠(ねずみ)」と、「Mouse」の直訳になっていることに驚きました。
また、クリックのことを「點」ではなく「響」で表現しており、かつ「響」の字までもが簡体字の「响」になってしまっていることが衝撃です。

「選擇周邊(セレクタ)」からは、System 5.1 TA1が当時のネットワークプロトコルである「蘋果網路(AppleTalk)」に対応していることがわかります。
ただし、AppleTalk対応の周辺機器が台湾国内においてどれだけ販売されていたのかは謎のままです。

こちらの「中文系統」は、System 5.1 TA1独自の中国語環境の設定するためのアクセサリ。「輸入法(入力方式)」では、入力方式や字形が設定できます。
入力方式は注音、倉頡、編碼、簡易と4種類から選べます。注音、倉頡、簡易(速成)はともかく、編碼はBIG5コードの手打ち入力。これで中国語の文章を作成する人は存在したのでしょうか…。

「字型編輯(字形編集)」では、フォントのカスタマイズができます。一部のシステムに登録されていない漢字はここから登録できたのでしょう。
ちなみに、システムに存在するフォントは16ドットの「台北」一つだけとなっています。

「設定」では、フォントファイルの検索先、対応する漢字が存在しないときの表示方式、そして既定の入力方式の3項目が設定できます。
なお、右下には「中文Talk」という表記が見えますが、これは明らかに当時の日本語版MacOSであった「漢字Talk」と同じ系列の単語でしょう。
もしかすると、当時のAppleでは日本語版を漢字Talk、中国語版を中文Talkとして展開してゆく計画があったのかもしれませんね。(追記:ありました。)

「説明」では、各項目の設定方法が詳細に説明されています。

「尋找檔案(ファイル検索)」は、シンプルな検索アクセサリです。左下の表示箇所は無理に縮小させたようで潰れてしまっていますね。

「鍵盤字表(キーボード)」は、こちらもシンプルなスクリーンキーボードです。

「剪貼簿(スクラップブック)」は、各ソフトウェア間でデータを共有するためのクリップボードのようなアクセサリです。
しかし、当時の台湾において、スクラップブックに対応しているソフトウェアがどれだけ出回っていたのかは謎のままです。

このほかSystem 5.1 TA1に搭載されていたDA(デスクトップアクセサリ)は「計算機」と「鬧鐘(時計)」。
「鬧鐘」アクセサリではアラームを設定することもできました。
System 5.1 TA1のFinder

Finderでは、今のmacOSと同じくアイコン表示ができました。そのほか、名前、日付、サイズ、種類でのソートもできます。
ファイルの大きさがKBで表示されていることも時代を感じますね。
ちなみに左上のボタンは閉じるボタンで、右上のボタンはウィンドウを最適な大きさに拡大・元の大きさに戻すボタンです。
Mac OS 9以前のMacを触ったことがある方でないと最初は何のボタンなのかわからないかもしれませんね。
System 5.1 TA1の標準搭載アプリ

「蘋果SCSI磁碟機設定(Apple HD SC Setup)」は、SCSI接続のHDDを構成するためのアプリです。HDDのフォーマットや検査が実施できたようです。

「中文輸入碼修正(Modify Index)」では、各漢字の入力方法を変更できたようです。

「TeachText」は、文字が打ち込めるだけのシンプルなテキストエディターです。
ここではデモとして、System 5が発表された1987年のヒット曲「我只在乎你(時の流れに身をまかせ)」の歌詞を打ち込んでみました。
当時の注音入力を本格的に使ってみると、「是」や「會」などの常用漢字が前面に出てこなかったり、「麼」は「ㄇㄛˊ」、「了」は「ㄌㄧㄠ」と打ち込む必要があるなど、現代の注音入力との使い勝手の違いに驚かされます。
おわりに:台湾初のMacOSは、戒厳令解除の翌年に発表された

「控制面板(コントロールパネル)」の左下、「TA1-3.2」と表記のある箇所をクリックすると、スタッフロールが表示されます。
台湾初のMac OSであるSystem 5.1が発表された1988年当時の台湾は、まだ前年に戒厳令が解除されたばかり。
当時は中華民国総統が蔣經國氏から李登輝氏へと移り変わる時期で、軍事的重要拠点であった金門・馬祖への一般人の往来は許可されていませんでした。
台湾の社会が開発独裁から民主主義へと移り変わろうとする頃にリリースされたこのMac OS System 5.1 TA1は、一体どのようなユーザーによって、どのように使用されていたのでしょうか。
現在ではあまりにも資料が少なく、中国語版を作成した人物の情報すら掴めません。
しかし、今のようにインターネットもない中で16ドット単一とはいえ正体字中国語のフォントを用意し、システムを2バイト文字に対応させ、IMEを開発し、全てのUIを中国語に翻訳、更にハードウェアに改造を加えずにソフトウェアベースで漢字表記のできるMac OSを作り上げることには、信じられないほどの労力と時間が必要だったことでしょう。
のこのこはエンジニアでも何でもありませんが、変態パソコン大好きおじさんの端くれとして、当時のApple Taiwanのエンジニアの方々には脱帽するばかりです。
もし、Mac OS System 5.1 TA1について、何か情報をご存知の方がいらっしゃいましたら、是非とものこのこまでご一報いただけますと幸いです。
(若各位讀者有人士擁有關於台灣第一代MacOS系統System 5.1 TA1相關資訊,為學術研究,希望勞煩您向南洋翻譯聯繫。)
編集後記

本日は九份の民宿「九窩(Jiw Wow Box Inn Jiufen)」さんにお邪魔しています。観光客の去った夜の九份を独り占めできるとても贅沢な空間です。
ちなみに九份は夜22時を過ぎると飲める場所がコンビニしかなくなってしまうので、日頃からアルコール消毒に熱心な皆様はくれぐれもご注意ください。
以上、台湾ビール本日3本目ののこのこでした。次は初の中国語版WindowsであるWindows 3.0のレビューでも書いてみようかな。


